亡くなられたBさんのご家族は、自他共に認める仲の良いご家族でした。

　お歳を召されてからも、ご自身の相続については特にこれといったご準備もされてみえませんでした。たとえご自身に万が一のことがあっても、家族みんなで話し合いの末無事に遺産分けを終えてくれるだろうから特に準備の必要もないと思っていらっしゃったようです。

　相続人の状況としましては、奥様が既に亡くなられていたため、長男さん、次男さん、長女さんの3人で、みなさんご結婚されており、次男さんご家族がBさんと同居してみえました。

　次男さんとしては同居されていたご自身がご自宅とその土地を相続し、預貯金については長男さん、長女さんと話し合って遺産分けするつもりでいました。日頃ご家族が顔を合わせる折にも「いつもBさんの面倒を見てくれてありがとう。 」とのお言葉を長男さんや長女さんからかけられていたこともあって、お互い暗黙の了解と思っていたのです。

　頃合いも落ち着かれ、遺産分けの話をする機会に次男さんよりその旨の意向を長男さん、長女さんに伝えたところ、Bさんの遺産をきっちり3等分してほしいという思いもかけないお答えが返ってきました。

　長男さん、長女さんの言い分としては、確かに面倒を見てくれたのはありがたいが、その分援助も受けているはずであり、ご自分たちはご自分たちですべて切り盛りしてきたのだから、遺産分けについては法定相続分どおり3等分するのが平等であるとのことでした。

　実情を知らない長男さん、長女さんのお言葉に次男さんは憤慨し、遺産分けは折り合いがつかず、平行線のまま時間だけが過ぎていきました。

　結局、当事者同士では決着がつかず、家庭裁判所での調停を経て、それでもお互いに納得がいかずに最終的には審判を下され、ようやく遺産分けが終了したものの、それ以降関係が疎遠になってしまったのは言うまでもありません。

　実は長男さんは営まれていた事業の資金繰りが厳しく、相続による遺産分けというこの機会をもって何とかしたいとの思いがあったようです。また、長女さんもお子さんの学費の捻出など何かとご入用で長男さんと同じくこの機会をもって何とかしたいとの思いがあったようです。

　常日頃、ましてやご家族で顔を合わせられる際にあえてそんな話はされないものでしょう。でも実際にはそれぞれのご家族に諸事情があるのもまた事実かと思います。

　長引く不況の影響から事業の経営は厳しさを増し、一方でお給料減額などサラリーマンも打撃を受けているこのご時世に、宝くじでもなければまとまった資金を手にする機会はまずありえません。

　嫌な言い方になってしまいますが、そんな状況では相続による遺産分けはまたとない機会であり、お互いに主張を曲げることができない、譲れないところとなってしまうのかもしれません。

　もしBさんがたとえ仲がよろしいご家族だったとしても、それぞれの状況をもう少し把握され、Bさんの想いをもって事前に何かしらの対策を打っておかれたとしたら、仲の良いご家族のままでいられたかもしれません。

　生前はご自身という大きな存在があります。ご家族もその点は十分ご承知だからこそ、まとまられるところもあると思われます。ただ、ご自身に万が一のことがあった場合には、ご自身の存在はもうありません。今まで思われていたことが一気に噴き出してしまうということもないとは言い切れないと思うのです。

　相続によるトラブルを引き起こしてしまうようなリスクが多少なりともあるのであれば、そのリスクの回避に策を講じられるのは大変重要なことだと思うのです。

　どうか「うちに限って・・・。」というお考えはぬぐい去っていただき、早急に対応をご検討いただきたいと思います。お元気でいらっしゃるからこそできることがあると思いますので。

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